記憶のメカニズムの応用:科学が教える暗記の3つのコツ

脳の模型を見て何かを理解した灯さん 記憶術
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灯

暗記が苦手です。どうすれば上手に憶えることができますか?

そんな悩みを抱える受験生は少なくありません。

前回の記事では、記憶は忘れることと思い出すことを繰り返すことで強化され、忘れかけた頃に復習することが重要だと考察しました。
では、その記憶のしくみを踏まえたうえで、どうすれば効率よく記憶に残る勉強ができるのでしょうか?

今回は、記憶のメカニズムを応用した3つの学習法「自己テスト学習」「分散学習」「インターリーブ学習」を紹介します。
いずれも科学的根拠に基づいた信頼できる勉強法です。
記憶に残る学び方を知れば、暗記への苦手意識はきっと変わっていくはずです。

01 自己テスト学習(Retrieval Practice)

灯

「自己テスト学習」ってどんな勉強法ですか?

「自己テスト学習」とは、学んだことを憶えているかどうか、何も見ないで自分の記憶だけを頼りにテストするという勉強法です。
「想起学習」「リトリーバル」「アクティブリコール」など様々な呼び名がありますが、いずれも同じ実験を根拠とする勉強法なので本質は同じです。

その根拠となる実験は、次のようなものでした。

2006年、心理学者のカーピックとローディガーは、120人の大学生を対象に、記憶の定着に関する実験を行いました。

学生たちは「太陽」と「ラッコ」に関する2種類の科学的な文章をそれぞれ勉強します。

まず、どちらか一方の文章については、7分間の素読を2回繰り返す、つまり合計14分間読み続けるという方法で学習しました。
もう一方の文章については、最初の7分間は素読し、次の7分間は何も見ずに記憶だけを頼りに内容を書き出す、いわゆる自己テストを行いました。

その後、学生たちは3つのグループに分けられ、それぞれ異なるタイミングで確認テストを受けます。
Aグループは学習から5分後、Bグループは2日後、Cグループは1週間後にテストを実施しました。

結果は興味深いものでした。
Aグループのようにすぐにテストを受けた場合は、素読を2回繰り返した文章のほうが成績が良かったのですが、時間が経過したBグループやCグループでは、自己テストを行った文章のほうがはるかに高い成績を収めました。

このことからわかるのは、「思い出す」という行為そのものが、記憶を長期的に定着させる力を持っているということです。

これは前回考察した「記憶の基本原理」で簡単に説明できるでしょう。
つまり、自己テストで脳の中に保存された情報を思い出したので、脳の検索する力が強化されたというわけです。

教科書を数ページ読んだら、一度本を閉じて、学んだ内容を記憶だけを頼りに思い出す。
問題集を数問解いたら、一度手を止めて、どんな論点が問われていたか記憶だけを頼りに思い出す。
実際にやってみるとこれがかなりしんどくて、頭がへとへとになるのですが、この負荷が脳にとっての「望ましい困難」です。

こうして自己テスト学習を繰り返していくと、日常のすきま時間でも、頭の中だけで「代理権の消滅事由って何だっけ?」とか「持分会社の定款の絶対的記載事項って何だっけ?」とか、自問自答ができるようになってきて、こうなると記憶の強化はさらに加速します。

灯

記憶だけを頼りに問題集を解くのも自己テスト学習ですね。

こう書いていて思い出しましたが、将棋の羽生善治先生は、頭の中で盤面研究をしてしまうとそちらに集中しすぎて危ないので、車の運転をしないそうです。
つまり、頭の中で将棋の勉強をするのが日常になっているんですね。

このように自己テスト学習は、誰でも徒手空拳で実践でき、それでいて効果も絶大なので、思うに最強の勉強法です。
ぜひ日々の勉強に取り入れてみてください。

Akari NOTE|この章でわかること
  • 自己テストとは、何も見ずに記憶だけを頼りに思い出す学習法である。
  • 思い出す行為が脳の検索力を高め、記憶の定着につながる。
  • 自己テスト学習は、日常のすきま時間でも記憶を育てられる実践的な方法である。

02 分散学習(Spaced Repetition)

灯

「分散学習」はどんな勉強法でしょう?

「分散学習」とは、勉強した内容について間隔をあけて復習を繰り返すという勉強法です。
一方、学習したことをすぐに復習する勉強法を「集中学習」と呼びます。

直感的には学習したことを忘れないようにすぐ復習する集中学習の方が大事そうに思えますが、様々な研究報告から集中学習より分散学習の方が効果的であることがわかっています。

特に顕著な例は次の実験です。

2008年、アメリカの研究グループが、インターネットを通じて1354人の参加者に「歴史的な事実を答える問題」を学習してもらうという大規模な実験を行いました。

この実験では、参加者が学習したあとに同じ問題を復習するまでの「間隔」を変えて、記憶への効果を測定しました。
具体的には、学習から復習までの期間を「0日(すぐ復習)」から「20日後」まで、さまざまに設定しました。
さらに、復習したあとにテストを受けるまでの期間も「7日後」または「35日後」と分けて、記憶の定着度を調べたのです。

結果はとても興味深いものでした。
テストまでの期間が「7日後」のグループでは、学習から復習までの間隔が「5日前後」の参加者が最も高い成績を出しました。
一方、テストまでの期間が「35日後」のグループでは、「10日前後」で復習した参加者の成績が最も良好でした。
さらに、どちらのグループでも「20日後に復習した」参加者の成績はそれほど悪くなかったのに対し、「学習してすぐ復習した」参加者は、どちらのグループでも最も成績が低かったのです。

この実験からわかるのは、適度な間隔をあけることで記憶の定着が高まるということです。
特に、すぐに復習するより長めの間隔をあけた方が総じて学習効果は高かったという点は、興味深いところです。

こうした分散学習の効果も「記憶の基本原理」で説明できると思います。
脳の検索する力は時間経過とともに低下するものですが、時間を分散させるとそれだけ思い出す際の負荷が大きくなり、「望ましい困難」によって検索する力がより強化されるのでしょう。
つまり、脳はある程度忘れないと記憶を強化しないというわけです。

灯

適度に忘れた頃に思い出すのが分散学習のコツなんですね。

また、ある程度まとまった内容を勉強するときも、短期集中で勉強するより適度に分散しながら勉強するほうが効果的だとわかっています。
試験前の一夜漬けで詰め込んだ知識は、試験が終わるとすぐに忘れてしまうというのは、誰しも経験として納得できるものでしょう。
一方、長期間にわたってコツコツと積み上げてきた知識や技術は、そう簡単には失われないものです。

このように分散学習は、長期間にわたって記憶を保持するために欠かすことのできない勉強法です。
1日だけ10時間勉強するより、1時間の勉強を10日間続ける方が、はるかに効率的です。

「毎日継続することが最も大事」というのは、ちゃんと科学的な裏付けがあるのです。

Akari NOTE|この章でわかること
  • 分散学習とは、間隔をあけて復習を繰り返す学習法である。
  • ある程度忘れてから思い出すことで、記憶の定着が深まる。
  • 短期集中よりも、継続的な積み重ねが記憶を育てることにつながる。

03 インターリーブ学習(Interleaved Practice)

灯

最後の「インターリーブ学習」は?

「インターリーブ学習(インターリービング)」とは、関連性のある様々な学習内容を混ぜ合わせて勉強するという勉強法です。
一方、単一の学習内容だけを集中的に繰り返す勉強法を「ブロック学習」と呼びます。

これも一般的にはブロック学習に対する信頼は根強く、ひとつの学習を徹底的に反復してから次に進むべきだと考える人は多いでしょう。
ところが実際には、様々なことを混ぜ合わせながら勉強する方が高い学習効果を生むことがわかっています。

中でも特筆すべきは次の実験です。

2007年、南フロリダ大学のダン・ローラーとケリー・テイラーは、小学4年生24人を2つのグループに分け、図形の問題を学習させた。

Aグループは、面の数を8問、辺の数を8問、角の数を8問、角度の数を8問と、ブロック学習で問題を解いた。
Bグループは、面と辺と角と角度の問題を混ぜ合わせ、8問ずつ4セットの問題を解いた。
どちらのグループも問題そのものは同じであり、違いは同じ種類の問題を続けて解くか、ランダムで解くかだけだった。

翌日、子どもたちに4種類すべてを1問ずつ出題するテストを実施した。
結果、前日にランダムに問題を解いたBグループは77%正解したのに対し、ブロック学習をしたAグループの正解率は38%と、その差は歴然だった。

これだけの差が生じた理由は2つ考えられます。

ひとつはやはり「記憶の基本原理」でしょう。
インターリーブ学習をしたグループでは、問題ごとに解法をリセットして思い出す必要がありますから、頻繁に「望ましい困難」が誘発し、それだけ学習内容が記憶に定着したのだと思われます。

もうひとつの理由は、テストが混ぜ合わせの出題だったことです。
混ぜ合わせの問題を解くためには、それぞれの問題の論点を特定し、その解法を思い出す必要があります。
同じ種類の問題を続けて解くブロック学習では、そうした力を培うことができないのです。
言うまでもなく、現実の試験というのは、論点が明示されずに混ぜ合わさって出題されるものです。
であれば、試験に合格するための勉強法として、どちらがより優れているかは一目瞭然でしょう。

このようにインターリーブ学習は、記憶の定着を期待できると同時に、本試験を想定した実戦的な学習効果のある勉強法です。

灯

同じ問題集でも、解くときの文脈や順序が変わると混ぜ合わせ効果が得られます。
間違えた問題だけを解き直すのも、一種のインターリーブ学習ですね。

なお、インターリーブ学習は同一ジャンル内の異なる論点の混ぜ合わせで有効な勉強法で、例えば英語と数学の問題を混ぜて勉強しても、効果は高くないそうです(わずかな分散効果は得られると思います)。
また、学習の初期段階ではブロック学習の方が効果的という報告例もありますから、その点も留意しながら活用していきましょう。

Akari NOTE|この章でわかること
  • インターリーブ学習とは、関連する複数の論点を混ぜて勉強する方法である。
  • 混ぜ合わせることで「望ましい困難」が生まれ、記憶の定着につながる。
  • 本試験のような混合出題に対応する力を育てる学習法といえる。

灯さんノート:記憶のメカニズムの応用まとめ

灯

ここまで読んでくださってありがとうございます。
記憶は、思い出すことで育ちます。
最後に、この記事のポイントをまとめておきます。
このノートを見返しながら、記憶のしくみに沿った勉強法を取り入れてみてください!

Akari NOTE|この記事でわかったこと
  • 自己テスト学習は、記憶を強化する最強の勉強法。
  • 分散学習は、長期記憶を育てるために欠かせない。
  • インターリーブ学習は、実戦力と記憶定着を同時に高める。
  • 記憶のしくみに沿った勉強法を選べば、暗記はもっと楽しくなる。

まとめ:3つの勉強法で記憶を味方に

今回は、記憶のメカニズムを応用した3つの勉強法「自己テスト学習」「分散学習」「インターリーブ学習」を紹介してきました。

これまで「暗記が苦手」と感じていたのは、記憶のしくみを知らなかっただけかもしれません。

思い出すこと。時間をあけること。混ぜて学ぶこと。
この3つの工夫は、記憶を育てるための確かな方法です。
今日からの勉強に、ほんの少しでも取り入れてみてください。

記憶が味方になれば、勉強は今よりずっと楽しく、前向きなものに変わっていくはずです。

灯
次は…どうしましょうか?

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